石壁で育った葡萄 [フランスのワイン]
前回に引き続きワインの話題をもう一つ。
19世紀末、アントワヌ・クリスタル(Antoine Cristal)という人物が、ちょっと変わった葡萄の栽培方法を思いつきます。
葡萄畑に東西に伸びる石壁を等間隔に立てます。この石壁には等間隔に穴があけられています。葡萄の苗は石壁の北側の根元に植えられ、伸びた枝を穴から南側に通し、蔓はそのまま南側の壁を這わせます。石壁は、太陽の熱を吸収し暖房の役割を果たし、葡萄が熟するの促進します。
この方法なら、糖分の豊富な葡萄が収穫でき、濃厚で豊かな味わいのワインを作ることができるそうです。
今回は、この方法でワインを作っているドメーヌと、アントワヌ・クリスタルがこの方法を生み出すきっかけになった葡萄園の2カ所を訪ねます。
ソミュール(Saumur) トムリー(Thomery)
最初に登場するのが、ロワール川渓谷にある町ソミュールのドメーヌ“Clos Cristal”。ここの石壁はトータルで3キロもあるそうです。アントワヌ・クリスタルがこの方法でワインを生産して10年で、あっという間に評判になり、数々の賞に輝きました。彼の死後は、オスピス・ド・ソミュール(Hospices de Saumur)が生産を続けています。オスピス・ド・ソミュールは、この地方の総合病院。一生独身だったクリスタルは葡萄園を遺産としてこの病院に贈ったのだそうです。
もう一つが、あのお城のあるフォンテーヌブローから8キロほどのところにある町トムリーの葡萄園です。ここでは石壁に葡萄の木を這わせて、果物としての葡萄を栽培しています。
映像は→こちら
トムリーの畑は北向きで葡萄の栽培にはあまり向かいない土地だったのを、石壁を使うという工夫をしたことで葡萄の栽培が定着しました。この方法は1840年に飛躍的に拡大し、1900年頃には石壁の距離は全体で300キロはあったそうです。現在はその半分くらいになってしまいました。
こちらは壁に穴はありません
ここでの葡萄の生産が発展した理由には、収穫した葡萄をうまく保存できたこともありました。葡萄の実を、水を入れた小さなボトルに詰めて、温度が一定に保たれた部屋に貯蔵すると、収穫してから数ヶ月間、たとえばクリスマスから復活祭の頃まで、さらには5月くらいまで、葡萄を新鮮な状態に保っておくことができたそうです。
1800年代の後半から1930年代まで、海外にまで輸出されるほど盛んだったこの葡萄栽培もしだいに衰え、1970年に産業としての役割を終えます。現在、この石壁の一部は国の文化財として保護されているそうです。
ドメーヌ名:Clos Cristal/Hospices de Saumur
URL:http://www.clos-cristal.com/index.html
ワインは日本でも手に入るようです。
無農薬有機栽培のカベルネ・フラン100%!オスピス・ド・ソミュール・ブティフォル NV クロ・クリスタル
- ショップ: ワイン商人 ドゥアッシュ
- 価格: 2,499 円
******** フランス人のつぶやき *******
「今日、私の事務所では、じっとしていても四方の壁に手が届いた」
VDM (Vie de merde)より
なるほど。壁の蓄熱と輻射熱を使っているのですね。
この方法ならかなり北のあたりでも美味しいぶどうが
作れるのでしょうね。
壁をつくる作業はたいへんだったと思いますが、
その苦労の甲斐はありそうです。
by orange (2010-10-10 23:24)
orangeさん
最盛期だった頃は、高級ブドウで名を馳せたそうです。
甘くておいしかったんでしょうね。
この町はあちこちに壁が残されているらしいので、ちょっと面白い風景がみられるかもしれません。
by carotte (2010-10-11 09:43)